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交通と統計 2025年7月(通巻80号)



2025年7月31日発行
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JR四国の歩みとこれからの取組み
  
西牧 世博にしまき つぐひろ : 四国旅客鉄道株式会社 代表取締役会長

 四国旅客鉄道株式会社(以下、当社)は、国鉄改革により1987(昭和62)年に発足したが、当初より営業赤字が想定されていたため、経営安定基金の運用益で営業赤字を補填するという基本財政スキームが執られた会社である。 また、本業の鉄道事業は、新幹線がなく、在来線の複線化、電化、高速化などの鉄道基盤が他のJR各社と比較するとぜい弱であることのほか、並行高速道路の延伸や沿線人口の減少により、会社発足当初から さらに厳しい状況となっている。このような状況下で、当社は企業単独の取組だけでなく、地域とともに公共交通ネットワークの四国モデルを追究しているほか、M&A戦略により 四国における地域コングロマリット企業を目指すなど、地域社会に根差した企業となるよう努めている。
 本稿では、当社のこれまでの歩みと「長期経営ビジョン2030」と「中期経営計画2025」に基ずく現在の取組みのほか、今後の事業展開について紹介する。
台湾新幹線の各駅間輸送密度を推定する
  
大内 雅博おおうち まさひろ:高知工科大学 システム工学群 副学群長

 公表されていない台湾高速鉄路の各駅間の輸送密度を推定した。公表されている全線一括の輸送量および各駅の乗降客数を用いて、中間駅の乗降客に占める北上方面旅客数の構成比を変数として、各駅間の輸送密度 の推定式を構築した。北上方面旅客数の構成比が、端部区間の輸送密度の推定値、および全線平均の輸送密度の推定値の両者の、公表データのみから算出可能な値との誤差率がそれぞれ最小となるように調整し、各駅間 の輸送密度を確定した。その結果、各駅乗降者数に占める北上方面客比率が上昇傾向にあった。各駅間輸送密度の推移からは、開業以来、特に台中以北の輸送量の伸び率が高いことが分かった。旅客の流動が台北中心に なりつつある傾向が示された。
ドイツの新たな大連立政権による交通政策の見通し
  
土方ひじかた まりこ :一般財団法人交通経済研究所 調査研究センター 主任研究員

 議会解散に伴う前倒し総選挙を経て、今春、ドイツにおいて、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)の二大政党からなる新政権が発足した。
 CDU/CSU、SPDとも、地域公共交通の運営や整備に向けた連邦財源の確保には、前向きな姿勢を示している。ところが、道路から鉄道へのモーダルシフトを喚起するための 自動車に対する規制の強化、全国の地域公共交通で通用する「ドイツチケット」の販売継続に要する公共負担の拡大、線路事業に従事するドイツ鉄道の子会社の独立性向上のための 改組といった論点においては、両政党の主張が大幅に相違していることが露呈した。その帰結として、新政権が策定した連立協定に列挙された交通政策は、双方の妥協策 としての様相を呈している。
 今般、最大野党となったドイツのための選択肢(AfD)による交通政策上の主張が、CDU/CSUのそれと少なからず近似している一方で、SPDとは明確に対立する内容が多くなっている ことを踏まえても、二大政党が十分な与党内調整に努めなければ、混乱が生じる可能性も見込まれる。
[鉄道施設探訪記] 第37回 国内設計トラス橋のさきがけ(上) - 関西鉄道・木津川橋梁と白石直治、那波光雄
  
小野田 滋おのだ しげる:公益財団法人鉄道総合研究所アドバイザー

 鉄道にまつわるさまざまな施設を紹介するシリーズである。多くの鉄道施設は見慣れた風景の中にとけこみながら、さりげなく存在している。このシリーズでは、そうした日常風景に埋もれた「逸品」にスポットをあて、その「真価」を紹介している。ここに登場する鉄道施設は、誰でもが知る鉄道施設ではなく、 むしろ知る人ぞ知るような物件ばかりだが、このシリーズによって黙々と鉄道輸送を支え続けてきた鉄道施設の存在を再認識していただければ幸いである。

 鉄道技術の導入にあたっては、構造物の設計を自国で行うことは、近代工業国家として克服しなければならない大きな課題であった。導入期の鉄道橋梁の設計は、いわゆるお雇外国人に一任され、明治10年代から明治20年代にかけてイギリス人技師による標準設計桁が完成した。日本人技術者の設計による トラス橋も、平井晴二郎の設計による幌内鉄道の入船町陸橋(北海道)、原口要の設計による官設鉄道の上碓氷川橋梁(群馬県)などいくつかの例があったものの、しばらくの間は外国人技師に委ねられていた。
 1897(明治30)年に完成した関西鉄道の木津川橋梁(現在の関西本線 大河原・笠置間)のトラス橋は、こうした橋梁設計の国産期に建設され、関西鉄道社長であった白石直治と同社の那波光雄によって設計が行われた。入船町陸橋や上碓氷川橋梁はすでに現存しないが、木津川橋梁は一部を改築したものの今も現役の鉄道橋 として使用され続けている。今回は、木津川橋梁の沿革と設計に関わった白石直治、那波光雄と木津川橋梁の関わりについて紹介してみたい。
 
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