観光と統計 ―現状と今後の方向―
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須田 寛:東海旅客鉄道株式会社相談役、元同社代表取締役社長、日本観光振興協会中部支部長
観光に限らず様々な施策を展開する際には「統計」が方針決定に、またその効果測定に、さらにそれを通じて次の施策を検討していくために大きい役割を果たす。しかし、観光は
人間の心理にまでかかわる幅広い行動という側面があること、即ち人間の精神的(本能的というべきか)要求を満たす行動でもあることから、その実態に定量的把握が難しい面が多く
、数値による統計が取りにくい分野であった。このようなこともあり観光にかかわる統計は、未整備なものが多く見受けられ、観光施策に統計が十分な役割を果たしていなかったと
考えざるを得ない。
しかし近年、「観光立国」が叫ばれ、観光が国・地域の重要な施策として積極的に取り組まれるに及び、観光統計の重要性があらためて認識されるに至った。まず国の観光(政策)
目標が(統計)数値で示されるようになったことである。(外国人)観光客数、観光宿泊数、観光消費額等がそれである。また観光満足度等定性的性格の強い目標も数値で示され、それらの
達成度、効果等を観光関係者が絶えず数値的に把握する必要が生じた。また、観光への各地の取り組みについても施策の費用効果分析、地域経済への影響等を絶えず統計数値によって
把握し次々と新しい施策を展開していく必要が生じ、観光にかかわる経営指標となる統計の重要性があらためて認識されるにいたった。
本稿では、このような情勢にかんがみ「観光と統計」についてその現状を反省し、その整備の方向ないし統計の活用方法等について私見を述べてみたいと思う。
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『グループ経営構想X〜限りなき前進〜』について
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一ノ瀬 俊朗:東日本旅客鉄道株式会社 常務取締役 総合企画本部長
2012年10月30日、JR東日本グループは会社発足以降、通算5回目となる経営構想「グループ経営構想X〜限りなき前進〜」(以下、「グループ経営構想X」)を策定した。直近の
「グループ経営ビジョン2020―挑む―」(以下、「GV2020」)は2008年3月に策定されたものであったため、約4年半ぶりの新たな経営構想である。GV2020の発表直後にいわゆる
リーマンショックが起こり、また2011年3月に東日本大震災が発生するなど、社会環境が大きく変化したことを受け、新たな経営構想を策定することとした。1987年の国鉄改革・会社発足
から25年が経過し、JR東日本グループが次なる四半世紀へと踏み出すにあたり、東日本大震災などの大きな環境変化を踏まえ、今後のグループの経営の方向性を改めて打ち出した
ものである。グループ経営構想Xでは、2020年頃までの社会環境の変化を見据え、経営の基本的方向性と具体的に実行することをまとめている。
以下に、グループ経営構想Xの策定の経緯を紹介していく。
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物流をめぐる現状 ―課題解決に向けた取り組みー |
伊藤 直彦:日本貨物鉄道株式会社相談役、一般社団法人日本物流団体連合会会長
物流とは、我々が生きていくうえで無くてはならないもので、社会の重要なインフラである。物流を取り巻く社会・経済環境は、バブル崩壊後のデフレ経済、少子高齢化
の進展、国内産業の空洞化、地球環境汚染問題等厳しいものとなっている。このため、総物流量の減少、労働力不足、輸送機関分担のアンバランス等が問題となっている。
これらの問題は、最近になって発生したものではなく、長年にわたり続いてきた構造問題も多くある。物流業界は、これらの問題に向き合うため、トラック、鉄道、海運、倉庫等
の各業界がそれぞれ団体を作って対応してきた。しかしながら、業界ごとの対応には限界がある。そのため、各業界の健全な発展に資すると共に、横断的な課題の解決を図る
事を目的として、平成3年9月に「日本物流団体連合会」が設立された。
本稿では、物流業界を取り巻く社会環境、経済環境を考慮しながら、統計をベースに現状を紹介し、課題の検証を行う。合わせて、物流連設立の経緯と諸課題への取り組みを
紹介し、物流業界の現状と課題、その解決に向けた取り組みについて検証を行いたい。
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鉄道事業部門の黒字化を目指して |
田村 修二:日本貨物鉄道株式会社代表取締役社長
当社は、国鉄改革により昭和62年に発足し、今年で27年目を迎えた。会社発足前の国鉄末期は、貨物部門だけで年間2000億円という巨額の赤字を計上しており、国鉄の
再建を進める上で鉄道貨物輸送をどう取扱うのか、その存立の是非を含めて様々な議論があった。地域ごとに分割される旅客会社とは別に全国一社の貨物会社を設立する
方針が決まつた後も、民営化する上で必須とされた新会社の収支均衡、旅客会社との関係をどう調整するかなどという難問が山積していた。その当時、私は国鉄貨物局で
新生貨物会社の立ち上げに関わっており、まさに不眠不休の状況であったが、今思えば大変貴重な経験をさせて頂いたと思っている。大変な難産の末に当社、JR貨物が
設立されたわけであるが、多くの課題を抱えたままのスタートであった感は否めない。スタートから26年間が経過し、当社を取り巻く状況も大きく変化しているが、ここでは
現在取組んでいる鉄道事業部門の黒字化について紹介させていただくこととしたい。
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JR貨物の技術展開 |
小田 和裕:日本貨物鉄道株式会社技術顧問
国鉄末期の技術開発の停滞を取り戻すべく、JR貨物は発足直後から積極的に技術開発を開始しました。車両開発では、インバータ機関車の投入検討を改革翌年度から開始し、EF200、EF210,EF510,
EH200、DF200と6車種の新型機関車とM250系直流貨物電車を新規に開発し導入しています。最近ではHD300ハイブリッド入替機関車の量産とEH800青函トンネル新幹線共用機関車の開発を実施中です。
一方、車扱い貨車の減少とコンテナ化の促進のため各種の物資形態にあったコンテナを搭載するためのコンテナ貨車の開発も行って来ました。
また、情報通信技術の進歩に伴い、コンテナの予約から始まってリアルタイムの所在追跡などを一貫して扱うIT-FRENS&TRACEシステムやナビゲーション機能によって運転士の運転操作を支援し
ヒューマンエラーの発生を未然に防ぐ運転支援システムなど、営業や列車運行、安全性向上などすべてに渡ってIT技術を導入しています。
本稿では、JR貨物の技術の展開を、各技術分野にわたり、@安全の確保、A輸送機材の改善、B経営の効率化、C環境への配慮の4つのテーマに分けて解説します。 |
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本州四国連絡橋と鉄道 |
森 章:株式会社ブリッジ・エンジニアリング技術事業本部長
筆者は本四架橋3ルート同時着工の政治決断がなされた1973年、本州四国連絡橋公団(以後、本四公団)に入社しました。以後、運輸省・建設省・大蔵省との事業説明
、調整を何度となく担当いたしました。
また、当初道路・鉄道併用橋であった大鳴門橋の取付高架橋の門崎高架橋を担当しました。この区間は神戸と鳴門を結ぶ本州淡路線の建設目途が立たないことから
道路橋として建設することになった部分です。この橋の設計・施工が最初の現場でした。その後、児島・坂出ルート(瀬戸大橋を含むルート)の岡山県側の陸上部(鉄道と道路)
担当の工事事務所で工務課長。道路単独橋に変更して建設に着手された明石海峡大橋では建設全般に関わり、建設完了後は瀬戸大橋を管理する第二管理局での執務を経験しました。
30年余の公団勤務期間で比較的濃密に本四鉄道事業に関わらせて頂いたご縁で今回の執筆を担当することになりました。
できるだけデータに基づいて書きたいと考えていますが、記録の無いものもあり、本文は一担当者としての観点での見方と、ご理解ください。
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瀬戸大橋の長大吊橋と列車走行性 |
松浦 章夫 :芝浦工業大学 名誉教授
本州と四国を結ぶ瀬戸大橋は1988年(昭和63年)に開通した。今年(2013年(平成25年))は,その25年目に当たる。本州四国連絡橋の架橋調査が始まったのは、1950年(昭和25年)頃とされている。長大吊橋など
の建設は、世界的にさほど珍しくなかったが、わが国では未経験な領域であった。加えて、高速列車を本格的に走らせるという計画は、世界でも初めての試みになろうとしていた。この点から見ても、
本州四国連絡橋の建設には、多くの技術的な課題の解決を要したことが想像できよう。
1964年(昭和39年)には東海道新幹線が開通したが、本州四国連絡橋の建設は、石油危機などの景気後退期を経て、1978年(昭和53年)に漸く開始された。その頃から、本州四国連絡橋の建設に必要な、構造材料、
大型構造、大規模基礎に関する設計・製造・施工法などの技術開発が、事前の成果を引き継いで現実性を帯びるようになった。高速列車を通すための研究開発も同様である。
本文は、本州四国連絡橋、児島・坂出ルートの建設プロジェクトの推進過程において、当時の研究者、技術者が経験した橋梁設計上の諸課題に触れ、瀬戸大橋の列車走行性に関する研究開発の経緯とその成果を
紹介したものである。
本文の内容は、以下のとおりである。T部「本州四国連絡橋の児島・坂出ルート」において、瀬戸大橋の建設計画と調査研究および設計技術上の課題と特徴を簡単に紹介し、U部「瀬戸大橋の列車走行性に関する
研究開発」において、列車走行性と長大橋梁、高速列車が走る長大吊橋、長径間橋梁上の列車走行性、地震時の列車走行性及び軌道設備と電車線設備について研究開発の要旨を述べる。V部「列車走行性に関する
実証試験と橋梁管理」では、瀬戸大橋開通直前に実施した実証試験における評価結果を紹介し、さらに関連した橋梁管理などについても若干言及する。
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[統計講座] 輸送密度から鉄道の本質が見える 第1回 朝ラッシュ時の大手私鉄の通勤電車のスピード |
大内 雅博 :高知工科大学社会システム工学教室准教授
連載開始にあたって
車窓風景は仕方がないにしても、鉄道は線区や区間(もちろん、会社も)によって列車本数、速度(所要時間)や乗車率(混雑率)といった「輸送サービス」が一様でない。車両派が
メインであろう鉄道ファンの中にも決して少数ではない「ダイヤ派」が存在しているが、毎日の利用客にとっては死活問題でもある。ノロノロ線区や最混雑線区の利用客は虐待
されているとの思いすら抱いているかもしれない。
本連載は、線区や区間による輸送サービスの差は決して意図的な「サービス格差」でなく、やむ得ない「必然」によるものとの前提に立つ。その上で、輸送サービスの差を
生じさせている主たる要因が輸送量であるとの仮説を立てて、検証していくものである。
要旨:東京圏の大手私鉄等の朝のラッシュ時の上り電車のスピードを支配する要因について考察を行った。1線当たりの輸送密度が輸送量を支配すると仮定し、距離20〜30Kmの
10社13線区について輸送密度と朝ラッシュ時との最速列車の評定速度との相関関係を求めた。その結果、1線当たりの輸送密度が高いほど、朝ラッシュ時の上り列車の評定速度
が低下する傾向を見出すことができた。
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鉄道資料研究:4 鉄道統計発達史史論ー4 |
加藤 新一:一般財団法人交通統計研究所理事
財団法人交通統計研究所は、日本国有鉄道の計算業務・統計業務の実務を担当する現業組織として設立された歴史を有し、人的つながりも深かった。このような経緯
から、日本国有鉄道の解散にいたる過程のなかで、とくに、明治期以来の国有鉄道の統計部門が統計業務のために現用し、公式に保存してきた鉄道統計および関連資料を
、その散逸を阻止し保全する等の目的のため、当時の所掌部局である日本国有鉄道情報システム部からそのまま引き継ぎ、整理・保存してきた。すなわち、鉄道統計の
いわば原本を、それが作成されたままに完全に保存する主体である。
ここでは、国有鉄道が残した膨大な情報群のそれぞれについてその性格を明らかにし、それらが作成されたバックグラウンドに即し整理・活用しようとする立場からも
「鉄道統計」の問題意識を再検討し、「鉄道統計」を核とする統計系列群をそれらが作成されたままに再構成してみる研究作業が必要であると考える。本稿はその一環を
なすものである。
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